やっぱりお芝居が好き    乙部 のりえ

 みなさまご無沙汰しております。乙部のりえです。
 今回この手記を書くにはとても勇気が要りました。それでもあの事件以後の真実の私を知って頂きたくペンを取りました。
 今の私は都内の某小劇団に所属し、毎日稽古に汗を掻いています。バイトとの掛け持ちで大変ですが、とても充実しています。やっと最近本来の自分になれたような気がしてます。
 あの頃の私はただ早くスターになりたくて、そのためには手段を選びませんでした。マヤさんに取り入り、暴走族を使って舞台に穴を空けさせ、代役となりスターの仲間入りをしました。チャンスは自分で掴むものだという信念は間違っていなかったと思っていました。そうあの舞台までは・・・。
 亜弓さんとの共演「カーミラの肖像」。確かに亜弓さんは天才だと聞いていたけど、演技力に自信があった私は、あそこまで食われてしまうとは思いよりませんでした。完全な敗北でした。そして気づいてしまったのです。亜弓さんが唯一ライバルと認めるマヤさんを演劇界から締め出してしまった自分の愚かさを。
 あの舞台以来、私の実力不足が露呈し、たちまち仕事の依頼は無くなってしまいました。私をスターにするために大金をつぎ込んだプロダクションは、とうとうヌード写真を出すようにと私に迫ってきました。それだけはいやだと、芸能界に入ることに反対していた熊本の両親に思い切って電話しました。「それみたことか」と言い、きつく説教されてしまいました。それでもプロダクションに高い違約金を払うことで話がまとまり私は熊本に帰ることになりました。
 荷物をまとめプラットフォームで電車を待っていると、隣のおじさんが読んでいる新聞記事が目に入りました。そこには劇団つきかげプラス一角獣のチャリティ公演「真夏の夜の夢」が紹介されていました。。写真にはマヤさんが写っているではありませんか!どうして?彼女はもう演技ができなくなったはず。私は乗るはずの電車を見送りました。そして本当に彼女が演技ができるようになったのか確かめてから帰省しようと思いました。
 公演当日、私は目立たないようにして公演が行われる公園に向かいました。野外ステージにはすでに観客がいっぱいとなっており、片隅で芝居が始まるの待っていました。
 舞台前の口上に勢いよく飛び出した妖精パック役のマヤさん。私の目は釘付けとなってしまいました。観客の心を早くも掴み、観客を舞台に集中させました。これはマヤさん、確かに大河ドラマに出ていたときと同じマヤさんだと感じました。
 舞台は往来の「真夏の夜の夢」の殻を破り、劇団員一人一人の個性が光り、終始飽きることをさせない楽しい舞台でした。殊にマヤさんのパック役は、一箇所にとどまることは無く、常にリズミカルに妖精としての動きを見せていました。彼女はあの逆境から見事に立ち直り、そればかりかさらに実力を付けていたのでした。
 舞台の幕が下りる頃には、私の目から涙がこぼれ止まりませんでした。「良かった!」身勝手だと思われましょうが、私は心の底からそう思ったのです。舞台が終わると私はそそくさとその場を立ち去りました。帰り道、私の心の中に熱いものが溢れてきました。「やっぱりお芝居が好き。スターになれなくてもずっと続けていきたい。」マヤさんの舞台が私に忘れていたものを思い出させてくれました。私は公衆電話で熊本に電話を掛け、今はまだ帰れないと告げました。父は勘当だと言い、母のむせび泣く声が受話器から聞こえました。
 幸い今の劇団に拾っていただき、0からの出発となりました。今はマヤさんの大ファンとなり(二人の王女観に行きました)、いつか紅天女が演じられるよう応援しています。そしていつか舞台でご一緒できれば(マヤさんには迷惑でしょうが)と日々稽古に励んでいます。
 最後にマヤさん、そしてガラかめのファンの皆さん、私のせいでマヤさんを窮地に陥れてしまい本当にごめんなさい。償っても償いきれない過ちでした。でももし舞台で私を見かけることがあったら、それが真実の私です。
それを覚えていてください。

ずいぶん、のりえさんを擁護するようになってしまいましたが、彼女のその後を考えていたら自然とこの文章になりました。ご感想を聞かせてくださいね。


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